【インビザラインの今後は一体どうなる?】クリアアライナー市場に続々と進出するスタートアップ企業(Candid, Smile Direct Club, Zenyum, Orthly)

目次

インビザラインに係る基本特許の状態

以前の記事でアラインテクノロジー社が保有するインビザラインに関する特許権が特許期間満了により続々と消滅していることを述べました。

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一般的に、特許権の存続期間とは特許出願日から20年となります(勿論、審査遅延や政令処分に応じて特許権の存続期間が延長する場合もあります。)。アラインテクノロジー社は、創業年である1997年にインビザラインに係る基本特許を米国に出願しておりますので、当該基本特許の権利は2017年に消滅しております。具体的には、以下に示すインビザラインに係る基本特許1~5のうち4つが既に消滅しています。

  1. 米国特許第5975893号(出願日:1997/10/08 特許満了日:2017/10/08
  2. 米国特許第6398548号(出願日:1999/12/17 特許満了日:2017/10/08
  3. 米国特許第6830450号(出願日:2002/04/18 特許満了日:2022/08/18)
  4. 米国特許第6705863号(出願日:2001/10/29 特許満了日:2018/07/16
  5. 米国特許第7125248号(出願日:2003/09/12 特許満了日:2019/01/04

インビザラインに係る基本となる特許権がまだ存続している場合には、クリアアライナー市場に新規参入しようとする企業は、クリアアライナーの製造販売に伴い当該特許権を必然的に侵害してしまう虞があります。この結果、新規参入企業は、当該特許権に係る侵害訴訟をアライン社から提起される虞があります。

このため、新規参入企業は、アライン社から特許権の実施許諾を受ける又は特許権の存続期間が満了するのを待つ必要があります。一方で、当該基本となる特許権が2017年の後半から2018年の間に続々と消滅しました。この結果、現時点において、アライン社が特許により独占していたクリアアライナー市場に新規参入するスタートアップ企業が続々と出現しています。

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アラインテクノロジー社については以下の記事をご参考ください。

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新規参入企業の簡単な紹介

以下、クリアアライナー市場に新規参入してきたスタートアップ企業についてご紹介します。尚、ご紹介するスタートアップは現時点で日本には進出しておりません。

Candid Care

Candid Care社は、オンラインだけでなく全米各地に店舗を展開しており、約2000ドルでクリアアライナーによる歯科矯正治療を受けることが可能。クリアアライナーによる歯科矯正治療の流れは以下となります。

  1. スタータキットの自宅への送付(患者の歯列の型取り)費用:95ドル
  2. 矯正歯科医の評価と治療プランの提示 費用:無料
  3. アライナーの購入 費用:1900ドル
  4. 矯正治療の終了後にリテイナーの入手 費用:無料
candid website

CANDIDのWEBサイトはこちらから

また、スタートアップ特集で有名なTech crunchのサイトではCandidについて以下のように紹介されております。

歯列矯正のスタートアップCandidは、シリーズBでGreycroft、Bessemer、e.venturesなどから新たに6340万ドル(約70億円)を調達した。これにより、これまでの調達累計額は9000万ドル(約100億円)となる。
FDA認可の整列器を3DプリントするCandidは、軽度から中程度の歯列矯正治療を必要とする人のためのものだ。歯列の型を取るキットは95ドルで、実際の整列器は前金で1900ドル払うか、月88ドルを2年間かけて払う。一方、ワイヤを使った歯列矯正は7000ドルほど、インビザライン矯正は8000ドルほどする。
自宅で型を取るのに加え、Candidは実在店舗で顧客が歯のスキャンができるようにした。現在のところ、Candidは13の実在店舗を展開していて、今年末までに全米60カ所超に広げることを目標としている。
実在店舗では、顧客は歯をスキャンしてもらい、30分以内に整列器をオーダーできる。Candidの歯列矯正医と歯科アシスタントが運営するスタジオは新顧客をひきつけている、とCandidのCEOであるNick Greenfield氏はTechCrunchに語った。

Tech Crunchの記事を引用

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Smile DIRECT CLUB

Smile DIRECT CLUB(以下、Smile社)は、2014年に米国で設立されており、自宅でのクリアライナー市場(歯医者を介さない歯列矯正)における95%のシェアを獲得しているようです。同社は、既に60万人の患者を抱えており、5000名の従業員及び300店舗を有しているようです。

現時点での同社の企業価値は32億ドルと言われており、ユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場スタートアップ企業)となります。現在同社はIPOに向けての準備を進めているようです。同社は、JPMorganを主幹事として2019年9月に向けてIPOの準備を進めており、IPOでは10億ドルの株式を売り出すようです。

また、2014年に創立された同社の2019年の売上が10億ドルを超えるとのことですから、うなぎ登りの成長をしているわけです。

また、アラインテクノロジー社は、SmileDirectClub社(Smile社)の約17%の株式を所有しております。過去に、Smile社は、アライン社が同社の秘密情報を不正利用したことに対して仲裁を申し立てました。この仲裁判決はSmile社に有利なものとなり、アライン社は、12店舗のインビザライン販売店を全て閉鎖すると共に、新店舗の開店禁止を命じられました。

さらに、Smile社が提供するアライナーを用いた歯科矯正治療は、歯科医又は矯正歯科医を原則として介さない自宅での歯列矯正治療(teledentistry)となります(※厳密にはSmile社と提携する歯科医等がリモートから患者の歯列の状態を3か月ごとにチェックするようです)。このため、歯科医師業界は、自分達の仕事がSmile社に奪われることに大きな危機感を抱いており、同社に対して現在訴訟を提起しているようです。つまり、彼らは、歯科医師を通さない矯正治療に対して異議を唱えているわけです。

smile direct club website

クリアアライナーによる歯科矯正治療の流れは以下となるようです。

  1. スタータキットの自宅への送付又は店舗への来店(患者の歯列の型取り)※以下のYoutube動画が参考になります。
  2. アライナーの購入 費用:1895ドル
  3. リテイナーの購入 費用:99ドル
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Smile社のWEBサイトはこちらから

また、同社は、最近Nighttime Clear Alignersといった新たな歯科矯正用透明マウスピース(クリアアライナー)の販売を開始しました。この製品では、1日のうち睡眠中の10時間だけ透明マウスピースを装着することで歯列を矯正することができるようです。つまり、この製品コンセプトは、寝てる間だけアライナーを装着することで歯科矯正治療ができてしまうといったものとなります。まさにストレスフリーの気軽な歯列矯正器具となるわけです。

SmileDirectClubのWEBサイトから引用

また、同社の通常のクリアアライナーの場合では、1日22時間の装着で矯正期間が平均6か月となる一方、このNighttime Clear Alignerの場合では1日10時間の装着で矯正期間が平均10か月となるようです。一方で、この歯列矯正器具を適用可能な患者はかなり限定されます。歯列の状態が中程度以上の患者のみこの歯列矯正器具を適用することができるようです

例えば、過去に歯列矯正治療をしたものの月日が経過することが歯列が徐々に乱れてきた患者等はこの Nighttime Clear Alignersを選択する可能性がありそうですね。

追伸:2019年9月13日にナスダックに上場を果たした同社についての記事を追加しましたので、こちらもご参照ください。

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Zenyum

Zenyum Pte. Ltd.(以下、Zenyum社)は、シンガポール、タイ、マレーシア、香港、インドネシアに展開するスタートアップ企業となります。クリアアライナーによる歯科矯正治療は以下となります。

  1. 問診表と歯の写真を送付 費用:無料
  2. 写真のレビュー及び患者の最寄りの歯科医院の紹介 費用:無料
  3. 最寄り歯科医院での口腔内スキャン、X線撮影等 費用:9000円~13000円
  4. 治療計画 費用:無料
  5. クリアライナーの購入 費用:17万3000円
  6. リテイナーの購入 費用:23000円
zenyum website

Zenyum社のWEBサイトはこちらから

orthly

orhthly社の企業情報についてはWEBサイトでは未だ公開されていないようです。クリアアライナーの治療費用は、簡単なケースの場合では1900ドルに設定されている一方で、複雑なケースの場合には2600ドルに設定されています。

orthly社のWEBサイトはこちらから

orthly website

まとめ

今回はクリアアライナー市場に新規参入しているスタートアップ企業についてご紹介しました。

インビザラインの基本特許の消滅に伴い、SmileDirectClubを筆頭とした新規参入組が今後シェアを伸ばしていくものと予想されます。特に、新規参入組の矯正治療は、原則として歯科医を介さない自宅での矯正治療であるため、2000ドル前後の価格に設定されております。この2000ドルの価格は、インビザラインの治療費用の三分の一程度となりますので、患者にとっては非常に魅力的なものとなります。

インビザラインを用いた矯正治療は、矯正歯科医を通じて患者に提供されるため、矯正歯科医の利益を考えた場合にはどうしても最終的な治療費は高くなってしまいます。例えば、矯正歯科医に対して販売しているインビザラインの仕入れ価格が1200ドルー1300ドルであったとしても、歯科医の診療報酬を含めると最終的な治療費は5000ドルー7000ドルとなってしまうのです。

今後の進展に応じてインビザラインによる矯正治療の価格設定がどうなるのかが一つ注目するところです。

一方で、アライン社の基本特許の幾つかが消滅したとはいえ、現時点でアライン社が保有する米国特許は400件以上となっております。このため、簡単な歯列に対応するクリアアライナー治療については今後レッドオーシャン化する可能性がある一方で、叢生等の複雑な歯列に対応するクリアライナー治療については暫くはレッドオーシャン化はしないようにも思われます。

今後のアライン社の業績の行方を予測する上で以下の2つの要因を考慮する必要があるかと思います。

  • インビザライン市場の拡大(ワイヤー矯正がインビザラインに置換)
    特に、現在のインビザラインは叢生等の複雑な歯列の矯正にも対応可能であるため、歯科矯正市場においてインビザラインのシェアは今後益々拡大するものと考えられます。特に、中国や日本を含む東アジア圏での市場の拡大が見込まれそうです。
  • インビザラインの特許満了に伴う新規参入組の増大
    基本特許は消滅したといえ、インビザラインのブランド力(商標の信用力)は存在し続けます。特に、インビザライン認定医やインビザライン治療の養成所といった存在も大きいかと思います。さらに、アライン社は矯正歯科業界との良好な関係を築いています。このため、スタートアップ企業にある程度シェアを奪われるものの、アライン社のクリアアライナー市場における地位は揺るがないものと考えられます。

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