【日本と米国】インビザラインに関連する特許-アラインテクノロジー社の特許分析

 前回の記事でアラインテクノロジー社が保有する特許件数について簡単に紹介しました。

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おさらいしますと、同社の報告によれば、同社は、現在894件の特許(米国特許:452件 米国外特許:442件)を世界で保有しております。

 今回アラインテクノロジー社が保有する特許のうちインビザラインに係る基本特許について簡単にご紹介します。

目次

インビザラインに係る日本特許について

アライン社による日本の特許出願の傾向

現在アラインテクノロジー社は、日本に約122件の特許出願(分割出願を含む。)を行っており、そのうち66件が既に特許となっております。

以下に各年度におけるアライン社による特許出願の公開公報の件数についてのグラフを示します。

アライン社による特許出願の公開公報の件数 筆者作成によるもの(使用データベース J-Plat Pat)

上記グラフのうち、青色部分は、新規出願(PCT出願の国内移行)の国際公開の件数となります。赤色部分は、分割出願の公開公報の件数となります。

例えば、インビザラインに関する最も重要な基本特許は1998年に国際公開されています(本基本特許は後述するように既に消滅)。その後、インビザラインに関する別の基本特許は2000年に8件国際公開されています。2000年に国際公開された8件の特許出願のPCT出願日は1999年から2000年に間となりますので、今年から来年にかけてこれらの特許も特許期間満了により消滅します。

このグラフからわかるように、アライン社は分割出願を積極的に活用していることがわかります。アライン社は、分割出願を積極的に活用した特許ポートフォリオの構築を図っているわけです。特に、2004年から2005年に提出された分割出願は、インビザラインに関する基本特許出願の分割出願と推測されます。これらの分割出願の原出願日は1998年から2000年の間となりますので、今年から来年にかけて特許期間満了により消滅します。

また、近年では2015年と2016年に多くの新規出願が国際公開されている一方で、ここ2-3年において新規出願が国際公開されておりません。つまり、アライン社は以前と比較して積極的に日本に特許出願をしていない又はPCT出願の件数が減少しているということが言えます。

インビザラインに係る基本特許(日本)

このうちインビザラインに係る基本特許は、特許第3620048号となります。当該特許の出願日(国際特許出願日)は、1998年6月19日となり、2018年6月19日に特許期間満了により特許権が消滅しております

当該特許の各独立クレーム1,2,33の記載は以下となります。

【請求項1】
最初の歯列から最終的な歯列に歯を再配置するためのシステムであって、該システムは、
該最初の歯列から第1の中間的歯列に歯を再配置するために選択された形状を有する第1の器具と、
該第1の中間的歯列から一連の中間的歯列に歯を漸次的に再配置するために選択された形状を有する一つ以上の中間的器具と、
最後の中間的歯列から該最終的な歯列に歯を再配置するために選択された形状を有する最終的器具と、を含む複数の器具を含み、
該最終的器具の形状は、該複数の器具のいずれのものが製造されるよりも前に決定される、システム。

【請求項2】
最初の歯列から最終的な歯列に歯を再配置するためのシステムであって、該システムは、
該最初の歯列から第1の中間的歯列に歯を再配置するために選択された形状を有する第1の器具と、
該第1の中間的歯列から一連の中間的歯列に歯を漸次的に再配置するために選択された形状を有する一つ以上の中間的器具と、
最後の中間的歯列から該最終的な歯列に歯を再配置するために選択された形状を有する最終的器具と、を含む複数の器具を含み、
該複数の器具は、一度に供給される、システム。

【請求項33】
最初の歯列から最終的な歯列に歯を再配置するために使用される複数の器具を製造する装置であって、該装置は、
最初の歯列を表す最初のデジタルデータ組を提供する手段と、
所望の最終的な歯列に対応する最終的なデジタルデータ組を生成する手段と、
該最初のデジタルデータ組と該最終的なデジタルデータ組とに基づいて、最初の歯列から最終的な歯列までの一連の歯列に対応する複数の中間のデジタルデータ組を生成する手段と、
該複数の中間のデジタルデータ組と該最終的なデジタルデータ組とに基づいて、一連の器具を製作する手段と
を備えた装置。

上記クレーム1,2,33を見ればお分かりかもしれませんが、これらの特許はまさにインビザラインの基本的な技術思想を示す権利範囲を有しておりますね。クレーム1,2は、一連のクリアアライナー自体を保護する権利範囲となっています。クレーム33は、患者の歯列のデジタルデータを生成するiTero(口腔内デジタルスキャナ)及びこれに通信接続された3Dプリンタからなる装置を保護する権利範囲となっていますね。

また、当該特許に対して第4世代までの分割出願(子出願、孫出願、曾孫出願、玄孫出願)がなされております。分割出願の件数は13件にもなります。私も弁理士として外内案件を担当していますが、1つの親出願に対してここまでの分割出願を行うことは非常に稀ですね。それだけこの基本特許が重要であることを示唆しております。尚、分割出願の出願日は、親出願と同じ出願日となりますので、6件の分割出願に係る特許権も 2018年6月19日に特許期間満了により消滅しております

基本特許から派生した13件の分割出願群 J-Plat Patから引用

ちなみに、この基本特許は、国際特許出願(PCT/US1998/012861)の日本への国内移行出願となります。本国際特許出願(PCT/US1998/012861)は、世界各地で国内移行(各国での権利化)がなされており、260件を超える外国ファミリー出願(分割出願含む。)を有しております。

当時創業2年目のスタートアップ企業であったアラインテクノロジー社がいかに特許を重要視していたことが如実にわかりますね。

通常、外国に特許出願又は国内移行するためには、各国の弁理士又は特許弁護士に代理人として特許出願の手続きを依頼する必要があります。さらに、英語圏ではない国への特許出願には、明細書等を現地語訳へ翻訳する必要があります。

つまり、外国出願は国内特許出願に比べて桁違いに費用がかかるのです。この国際特許出願(PCT/US1998/012861)に係るファミリー出願の権利化には、数億単位の費用が発生しているものと推測されます。ですので、アライン社は、ベンチャーキャピタルからの出資金から特許出願の費用を捻出したものと推測されます。

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インビザラインに係る米国特許について

アライン社による米国の特許出願の傾向

アライン社の米国特許公開公報の件数の推移(横軸は公開年)

上記グラフは、年度ごとにおけるアライン社の米国特許公開公報の件数の推移を示しています。横軸は公開年を示します。同社の米国特許公開公報の件数を抽出するために無料特許データベースであるUSPTO Patent Application Full-Text and Image Database (AppFT)を使用しました。

このデータから明らかなように、ここ最近の同社の公開公報の件数は大きく増加しています。2019年の同社の公開公報件数は9月時点で106件となっているのです。2001年から2019年9月までに584件の公開公報が存在します。

次に、同社の米国特許件数の推移について以下に示します。

アライン社の米国特許件数の推移(横軸は出願年)

横軸は出願年を示します。同社の米国特許件数を抽出するために無料特許データベースであるUSPTO Patent Full-Text and Image Database (PatFT)を使用しました。 2019年9月時点までに470件の米国特許が成立しております。この数字は、既に特許期間満了により消滅した特許を含むものとなります。

例えば、2014年の特許件数においては以下の検索クエリーを使用しています。

AANM/(align AND technology) OR AN/(align AND technology) AND APD/(1/1/2014->12/31/2014)

また、同社の米国特許出願は、通常出願(新規出願)だけでなく継続、分割、一部継続(CIP)等の派生出願を含むものとなります。

先ほど説明したように、アライン社は積極的な分割出願を利用することで日本の特許ポートフォリオを構築しております。米国特許出願戦略でも同様に、アライン社は積極的な継続出願と一部継続出願を利用することで米国での特許ポートフォリオを構築しております。

また、日本の特許出願件数の傾向とは全く異なり、2014年以降アライン社の特許出願件数は右肩上がりで上昇しております。2014年以降の特許出願件数の多くが継続出願等の派生出願によるものであると推定されます。

特に、米国の特許出願制度は、一部継続出願(CIP)を採用する点で日本の特許出願制度と大きく異なります。日本の特許出願制度では、既に提出された基礎出願の内容に新たな技術的内容が追加された出願をする場合には、国内優先権出願を利用することができます。しかし、この国内優先権出願は、基礎出願から1年以内に提出する必要があります。さらに、国内優先権出願に伴い基礎出願が取り下げられてしまいます。

一方、米国の特許出願制度では、 既に提出された基礎出願の内容に新たな技術的内容が追加された出願をする場合には一部継続出願を利用することができます。一部継続出願は、基礎出願が出願係属中であれば提出可能となります。さらに、一部継続出願に伴い基礎出願は取り下げされません。このような事情より、アライン社は積極的に一部継続出願を活用しているわけです。

私は、2000件以上の内外出願(特に、米国出願)の経験を有していますが、日本企業は継続出願を活用する一方で一部継続出願を活用することは非常に稀となります。日本企業が基本発明に対する改良発明を特許出願する場合には、殆どのケースで通常の新たな日本特許出願を提出することになります。時期的要件が満たされる場合には国内優先権出願が活用される場合もあります。

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インビザラインに係る基本特許(米国)

インビザラインに係る米国特許は、以下5件と推定されます。これらの5件の特許はインビザラインの包装パッケージに記載されています。

  1. 米国特許第5975893号(出願日:1997/10/08 特許満了日:2017/10/08
  2. 米国特許第6398548号(出願日:1999/12/17 特許満了日:2017/10/08
  3. 米国特許第6830450号(出願日:2002/04/18 特許満了日:2022/08/18)
  4. 米国特許第6705863号(出願日:2001/10/29 特許満了日:2018/07/16
  5. 米国特許第7125248号(出願日:2003/09/12 特許満了日:2019/01/04

上記の基本特許のうち4件の特許権が特許期間満了により消滅していますね。このように、米国においてもインビザラインの基本特許の権利は殆どが満了しています。このような事情の中、クリアアライナーに新規に参入するスタートアップ企業が続々と出現しています

次に、各基本特許1~5の独立クレーム1について以下に簡単にご紹介します。

米国特許第5975893号

  1. A system for repositioning teeth from an initial tooth arrangement to a final tooth arrangement, said system comprising a plurality of dental incremental position adjustment appliances including:
    a first appliance having a geometry selected to reposition the teeth from the initial tooth arrangement to a first intermediate arrangement;
    one or more intermediate appliances having geometries selected to progressively reposition the teeth from the first intermediate arrangement to successive intermediate arrangements; and
    a final appliance having a geometry selected to progressively reposition the teeth from the last intermediate arrangement to the final tooth arrangement, wherein the appliances comprise polymeric shells having cavities and wherein the cavities of successive shells have different geometries shaped to receive and resiliently reposition teeth from one arrangement to a successive arrangement.

上記クレームでは、最初から最後目標の歯列までの一連のインビザラインが特定されていますね。

米国特許第6398548号

  1. A system for repositioning teeth from an initial tooth arrangement to a final tooth arrangement, said system comprising a plurality of dental incremental position adjustment appliances including:
    a first appliance having a geometry selected to reposition the teeth from the initial tooth arrangement to a first intermediate arrangement;
    one or more intermediate appliances having geometries selected to progressively reposition the teeth from the first intermediate arrangement to successive intermediate arrangements; and
    a final appliance having a geometry selected to progressively reposition the teeth from the last intermediate arrangement to the final tooth arrangement, wherein at least some of the appliances are marked to indicate their order of use.

一連のインビザラインに使用番号が示されている点がクレームで特定されていますね。

米国特許第6830450号

A method of repositioning teeth, the method comprising:
bonding an attachment having at least one force receiving component to a preselected position on at least one of the teeth; and
providing a polymeric shell repositioning appliance, wherein the polymeric shell has at least one force transmitting component for transmitting a force;
wherein the polymeric shell repositioning appliance is placeable over the teeth so that the force transmitting component and the force receiving component engage each other at a contact point within a locus of engagement, wherein a position of the contact point adjusts within the locus of engagement as the tooth is repositioned.

この特許権はまだ生きていますね。歯に接着したアタッチメントの力受容部分とアライナーの力伝達部分との接触点の位置が両者の係合軌跡内において調整される点がクレームで特定されています。

米国特許第6705863号

  1. A method for producing digital models of dental positioning appliances, said method comprising:
    providing a digital model of a patient’s dentition;
    producing a plurality of modified digital models of the dentition, wherein the modified models represent successive stages of an orthodontic treatment;
    providing a digital model of at least one attachment device; and
    positioning the digital model of the attachment device on at least some of the plurality of modified digital models.

このクレームでは、患者の歯列矯正の一連の段階を示す複数の改良されたデジタルモデルにアタッチメント装置のデジタルモデルを位置決めする点が特定されておりますね。

米国特許第7125248号

  1. A system for repositioning teeth from an initial tooth arrangement to a final tooth arrangement, said system comprising a plurality of dental incremental position adjustment appliances including:
    a first appliance having a geometry selected to reposition the teeth from the initial tooth arrangement to a first intermediate arrangement;
    one or more intermediate appliances having geometries selected to progressively reposition the teeth from the first intermediate arrangement to successive intermediate arrangements including a last intermediate arrangement; and
    a final appliance having a geometry selected to progressively reposition the teeth from the last intermediate arrangement to the final tooth arrangement,
    wherein the appliances comprise polymeric shells having cavities, wherein the cavities of successive shells have different geometries shaped to receive and resiliently reposition teeth from one arrangement to a successive arrangement and wherein at least one appliance includes one or more receptacles each adapted to receive an attachment device.

このクレームでは、クリアアライナーにアタッチメントを収容する収容部が設けられている点が特定されてますね。

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まとめ

今回の記事は如何でしたでしょうか?

歯列矯正業界のディスラプターであるアラインテクノロジー社が如何に特許を重要視しているかがご理解頂けたのではないでしょうか?また、同社は、創業2年目である20年前において、ブルーオーシャン戦略に基づいた特許出願を既に実践していたのです。

やはり米国の知財戦略は日本よりも20年は先を行っているように思われます。アライン社の知財戦略については、テック系スタートアップ企業を担当する身としては大変参考になります。

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次回では、インビザラインの基本特許満了に伴い、クリアアライナー市場に続々と参入してきたスタートアップ企業についての記事を考えています。

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また、アライン社を巡る特許紛争についての記事もご参考ください。

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