こんにちは、庶民派アラフォー弁理士です。
最近の京急線の衝突トラブルなど、令和に突入してから神奈川県での公共交通機関のトラブルが絶えないですね。
また、横浜の山下埠頭を舞台にした政財界の思惑にも最近注目が集まっています。山下埠頭のIR誘致はやはり既定路線でしたね。ここ数年のみなとみらいの再開発の過熱ぶりには目を見張るものがあります。
今回は、弁理士事務所(特許事務所)に勤務する弁理士、とりわけ国内出願(国内明細書作成)を主たる業務とする勤務弁理士の現状について簡単にお話します。
1/3ルールとは?
勤務弁理士は、事務管理システムを備えた事務所のプラットフォームを借りた上で、弁理士活動をしています。
このため、自分が稼いだ売上の1/3は自分の収入となる一方で、2/3は事務所側の取り分となる場合があります。所謂、業界での1/3ルールというものが存在します。
一方、売上とは関係なく年功序列の給与体系を採用している弁理士事務所も存在します。特に、大手事務所は、年功序列の給与体系を採用しつつ、今期目標を超えた売上分については賞与の形で還元する場合もあるようです。当然ながら、業界未経験者の給与が低く抑えられていることは言うまでもありません。
しかしながら、最近では明細書作成の難易度が飛躍的に上がっている一方で、一出願当たりの報酬額が据え置きないし低下しているのが現状となっています。
つまり、弁理士の国内出願業務が複雑化・難化する一方で、一出願当たりの報酬額が上がっていないため、業界の1/3ルールは国内業務を主とする勤務弁理士を貧困に陥れている場合もあります。特に、大手弱電メーカや大手自動車メーカを主に担当する弁理士は、なかなか辛い状況のようです。
例えば、大手弱電メーカであれば、出願一件当たりの報酬単価を低く抑える一方で、大量の出願を指定の弁理士事務所に依頼する傾向があるようです。
事務所経営的にはトータルとしての数字が確保できます。
しかし、特許事務所のビジネスは、労働集約型のビジネスであるため、一件当たりの報酬単価が低下すると、弁理士の時給単価(単位時間当たりの弁理士の労働価値)も必然と下がります。これにより煽りを受けるのは、勤務弁理士(アソシエイト)であることは言うまでもありません。
さらに、事務所の顧客ポートフォリオが分散していない場合には、事務所側は報酬単価の引き上げを要求できないわけですね。まさに元請け(企業知財部)と下請け(弁理士事務所)の関係となるわけです。知財管理費用は当然コストとなるわけですので、 元請け側(知財部側)は、報酬単価を簡単には上げられないわけです。
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国内業務の複雑化・難化の要因
また、国内業務が現在、複雑化・難化する要因は以下となります。
- 英訳を強く意識したグローバル明細書の作成(特に、英文クレームドラフティングを意識した基礎出願クレームの作成)
- 外国特許プラクティス(例えば、米国特許法第101条に係るPost-Aliceプラクティス等)を考慮した明細書の作成
- 特許侵害訴訟を意識した明細書の作成(侵害特定、侵害回避策、複数主体、域外適用などを徹底考慮)
- 技術の複雑化(第4次産業革命の進展に伴うAI/IoT関連発明)
- 明細書の長文化(複数の実施形態や変形例を記載)
- 企業知財部業務の代行(発明発掘、先行技術調査、1行アイディアからの明細書作成)
企業側の出願戦略も出願の量から質にシフトしています。さらに、基礎出願に対する外国出願比率も上昇しています。
ですので、一件当たりの明細書作成の手間は増加すると共に、外国プラクティスに沿った英訳し易い明細書の作成が求められているのです。
英訳し易い明細書を作成するには常に英語を意識した文章を記載する必要があるので文章の組み立てに余計に時間を要します。
こういった現状により、明細書作成に要する検討時間が増大しているのです。一方、報酬単価は上がっていないため、実質的な弁理士のアワリーチャージが低下しているのです。
例えば、日本弁理士のアワリーチャージが2万円であれば、明細書1件の報酬が30万円の場合、検討時間として15時間以内を目標として明細書を完成させることが望ましいのです。
一方、報酬単価が30万円の案件で明細書作成に要する検討時間が30時間となる場合には、弁理士のアワリーチャージは実質的には1万円となってしまうのです。1/3ルールを適用すると、弁理士の時給は3333円(=1万円÷3)ですよね・・・。
さらには、報酬単価が20万円の案件で明細書作成に要する検討時間が40時間となる場合には、弁理士のアワリーチャージは5000円となります。1/3ルールを適用すると、弁理士の時給は1666円となります。こういった事例は、安い単価でビジネスモデル系の難しい出願(明細書枚数は70ページを超える場合もあり。)を受任する場合にはあり得ることなのですね。
以下に、1/3ルールを適用した場合と1/2ルールを適用した場合のそれぞれにおける勤務弁理士の年収を示します。条件は以下とします。
上記グラフより、実質アワリーチャージが2万円である場合には、1/3ルールを適用した場合には額面年収は800万円となります。一方、実質アワリーチャージが5000円である場合には、1/3ルールを適用すると額面年収は200万円となるのです。
報酬単価が20万円の出願案件に20時間程度を費やした場合には、実質アワリーチャージは1万円となりますが、1/3ルールを適用した場合の年収は400万円となってしまうのです。これではとても救われませんし、家族を養うことは不可能です。
これは明らかに超難関の国家資格(最終合格率:6%から7%)を突破した弁理士に相応しい年収ではないですよね。
事務所勤務の弁理士なんて正直やってられないとなるわけです。超難関資格の弁理士試験を突破した後に待ち受けるのが、激務と貧困であったとしたらそれは大変悲しい事実です。実際に、勤務弁理士の貧困化や貧乏な勤務弁理士が増加しているといった事実があるのです。
そもそも安い単価でこんな案件を受けた事務所側(パートナー弁理士)の責任でもあるわけですが、被害を受けるのは勤務弁理士となるわけですね。
しかしながら、経営者サイドは安い案件を大量に受注しても痛くも痒くもないのです。案件1件当たりの単価が安くても売上の2/3が事務所側の懐に転がり込むのです。事務所固定費を考えた場合には、大量に受注したほうが事務所の利益は膨らみます。一方、事務所が大量に安い案件を受注すると、経済的且つ精神的なダメージを受けるのは勤務弁理士となります。
経営者サイドは単なるブローカーなのです。勤務弁理士に案件を断る裁量なんてないのです。
外国人技能実習生が現在日本において問題になっていますが、これも本質的には同じ搾取構造です。
こういったこともあり、勤務弁理士が企業知財部に逃げ込んでいるといった現状もあります。これは、明細書の内製化を進める企業知財部の思惑とも一致しているのですね。
また、企業知財部に勤務するインハウス弁理士であれば、売上を気にせずに自社の特許権利化に集中することができますし、辛い作業である明細書作成については事務所に外注することで逃れることも可能です。
その一方で、一部の大手企業知財部は、経費削減のために大量の明細書を中途採用した弁理士に作成させていたりもします。まさに究極のコスト削減手法ですが、これでは勤務弁理士は搾取されるために企業知財部に転職したことになります…。
さらに、明細書の作成を志望する弁理士やある程度の品質を確保した明細書を書ける弁理士の人数が減少の一途を辿っているのです。
特に、情報通信技術(ICT)系のグローバル明細書を書ける弁理士が圧倒的に不足しているといった現状もあり、各弁理士事務所はこれらの弁理士を確保することに躍起になっているのです。
弁理士であっても一人の人間ですので、辛い仕事の割に高収入が望めなければ企業知財部や別の業界に転職するのは当然の結果となります。
こうなってしまったのは当然と言えばそれまでです・・・。
弁理士業界の規制緩和の結果、一部の勝ち組以外の弁理士は徹底的に搾取されてしまったのです。
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ではどうすればいいのか?
国内業務を主とする弁理士の待遇を上げるにはどうしたらよいでしょうか?
以下のアプローチがあります。
- 国内出願業務に関しては1/3ルールを見直す。
- 報酬単価の低い仕事は今後一切受けない。
- アワリーチャージ制の料金体系の導入
- 独立
第一に、弁理士事務所側の設定している1/3ルールは見直すべきかと思います。
そもそも事務所経営上、事務所賃料やパートナーに対する報酬等の固定費がかかり過ぎているのが問題なのです。そもそもテレワーク全盛の現代において、都内一等地にある豪華な賃貸オフィスは果たして必要でしょうか?
また、事務管理ソフトは電子化・クラウド化しつつ、賃貸オフィスではなくWeWork等のシェアリングオフィスを活用するのも一手ですね。
さらに、明細書作成において最低でも弁理士のアワリーチャージが2万円を確保できるようにするべきです。例えば、報酬単価が20万円であれば10時間以内に仕上がる見込みがない新規案件は断るべきです。上記したように、 報酬単価が20万円で明細書作成に要する検討時間が40時間となるような新規案件はそもそも受任しないのが賢明となります。
弁理士稼業は労働集約型のビジネスですので、安く仕事を受けるということは自分の価値を安売りすることでもあるのです。
特に、大手自動車メーカや大手弱電メーカ等のレガシー企業が顧客の場合には、案件単価が安い場合があるので注意が必要です。国内出願業務に限って言えば、これらの企業よりは今後の成長が見込まれるスタートアップ企業をターゲットとするのも一手かと思います。徐々に顧客ポートフォリオを分散させていくことも一手かと思いますね。
例えば、最近はスタートアップ企業の案件をメインで扱う弁理士事務所が弁理士業界の新興勢力として台頭していますね(※筆者の事務所も中小企業スタートアップ支援をメインとした弁理士事務所となります。気になる方はTwitterから直接お問い合わせください。)。
また、米国特許弁護士のように、アワリーチャージ制での請求を採用するのも一手となります。東海岸の特許弁護士であればアワリーチャージが500ドルというのがスタンダードになりつつあります。日本弁理士のアワリーチャージが180ドルが平均であるとすれば、両者には2.7倍もの格差が存在するのですね。正直、米国弁護士は130万人以上も存在しますので、日本弁理士資格を取得するほうがはるかに大変かとは思いますが、そこは国力の差となります。
最後に、搾取されている現状を打破するにはやはり独立です。弁理士は、独立しやすい資格であると共に、独立に対するリスクが少ないと一般的に言われています。士業となった以上、自分の道は自分で切り開くのが理想なのですね。
独立すれば、案件を自分で取捨選択することも可能です。勿論、営業、経理、事務を自分でこなす必要はありますが、他人から搾取されないため実質的な時給(単位時間当たりの自分の価値)は圧倒的に増大するのです。
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