以前の記事において、インビザラインを販売するアラインテクノロジー社の基本特許の期間満了に伴い、クリアアライナー業界に新規参入するスタートアップ企業についてご紹介しました。
その中からSmileDirectClub社(以下、スマイル社)が2019年9月13日にナスダックに上場を果たしました。同社の株のIPOでの売出価格は23ドルであったものの、初日の終値は16.67ドルとなり、IPO価格から28%ダウンで初日の取引が終了しました。
しかしながら、下落はまだまだ止まりません。2019年9月30日現在において同社の株価は、13ドルまで下落しております。現在の株価は、IPO価格から44%ダウンとなっております。
一体なんでこんなことになってしまったのかを今回は検証したいと思います。
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アライン社とスマイル社との比較その1
アライン社とスマイル社との比較をします。
まずは現時点における両社の時価総額を以下に示します。
現時点においてアライン社の株価は175.8ドルとなる一方で、スマイル社の株価は13ドルとなります。アライン社の時価総額は140億ドル(1.5兆円)となる一方、スマイル社の時価総額は50億ドル(5400億円)となります。スマイル社の時価総額はアライン社の時価総額の約36%ということになります。
アライン社の売上と当期利益の推移
次に、アライン社の売上と当期利益の推移は以下となります。
直近の業績では、売上高当期利益率は約20%となります。また、粗利益率は72%となります。流石、米国医療機器メーカですね。
スマイル社の売上と当期利益の推移
また、スマイル社の売上と当期利益の推移は以下となります。
スマイル社の売上規模はアライン社の28%程度となります。同社の売上はこの3年間において大きく伸びております。一方で、同社の当期利益の赤字幅は大きくなっています。これは人件費を含む販売費及び一般管理費が大きくなっているためです。
また、同社の直近の業績では、粗利益率は78%となります。後発企業ですので粗利益率は高いですね。
アライン社とスマイル社とのEPSの比較
両社のEPSの推移は以下となります。
スマイル社は赤字企業ですのでEPSはマイナスとなります。一方、アライン社は直近5年間においてEPSを順調に伸ばしてきています。しかしながら、中国市場の苦戦によりアライン社の今年のEPS成長率は大きく鈍化することが予想されております。このため、アライン社のPER(ttm)は現時点で33.6倍まで低下しております。
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アライン社とスマイル社との比較その2
次に、特許出願件数の観点から両社を比較します。特許件数については米国特許出願件数についてのみ対象としております。調査に使用したデータベースは、PatFT及びAppFTとなります。
米国特許公開公報の件数の推移
両社の米国特許公開公報の件数の推移は以下となります。
アライン社のここ数年の特許公開公報の件数は飛躍的に増大しております。1997年に出願されたインビザラインに関する基本特許は満了により消滅しましたが、インビザラインに関連する発明について依然として多くの特許出願がなされております。2000年から2019年9月時点までの同社の公開公報の件数は584件となります。この件数は継続出願、分割出願及び一部継続出願を含むものとなります。
一方で、スマイル社の公開公報の件数は現時点までに14件となります。同社はインビザラインが独占していたクリアアライナー市場に後発企業として参入してきたため、そんなに多くの特許出願をしておりません。同社の公開公報の内容を見ると以下に関する発明の特許出願を主にしているようです。
- 歯列矯正キット(患者歯列の型取り用キット)の配送システム
- クリアアライナー製造用コンベヤーシステム
- 患者歯列の3Dモデルの生成方法
両社の米国特許件数の推移
両社の米国特許件数の推移は以下となります。
アライン社は現時点までに470件の特許を米国において取得しております(そのうちの何十件かは特許期間満了により消滅)。一方、スマイル社は3件の特許を現在保有しております。この3件の特許は以下の発明に関連するものとなります。
- クリアアライナー製造用コンベヤーシステム
- 患者歯列の3Dモデルの生成方法(2つの3Dモデルの合成により最終的な3Dモデルを生成する方法)
さらに、アライン社はクリアアライナー業界のディスラプタとして世界中で特許を取得しています。一方、スマイル社については今後世界市場への進出を図るものの、グローバルな特許出願はあまりされていないようです。
このように、特許の観点(即ち、無体財産権の観点)から言えば両社には圧倒的な差が存在し、スマイル社はクリアアライナー市場においての競争優位性は備えていないと考えられます。
同社が米国市場において売上を急速に伸ばしている理由は、ズバリ低価格(約2000ドル)での在宅矯正治療となります。
しかしながら、低価格だけでは世界市場を攻略することは難しいように思われます。現に中国市場等の世界市場では低価格のクリアアライナーを提供する企業が近年出現していますので、スマイル社の今後は楽観視できないかと思われます。
まとめ
今回の記事ではアライン社とスマイル社との比較を通じてスマイル社の現在の株価が妥当であるかを検証してみました。
結論としては、特許という兵器があまりないスマイル社の現在の時価総額50億ドルは少々高いものと見受けられます。ちなみに、IPO価格23ドルでは同社の時価総額は88億ドル(約9500億円)となるのです。これはまさにIPOバブルと言えそうです。
一方、アライン社の特許公開公報の件数の伸びを見ると、インビザラインはまだまだ進化していくものと思われます。インビザラインの基本特許は切れたとはいえ、同社の技術的な競争優位性は今後も揺るがないものと思われます。このため、現在のPER33倍は割安水準のように思われます。
世界市場を攻略する上で世界中で基本特許が取得されているかが一つの鍵となりますので、今後の米国企業の成長を予測する上では特許情報は有力な情報源となるのです。
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